心に残る一言

「二人が睦まじくいるためには愚かでいるほうがいい」
これは、吉野弘さんの創られた詩、『祝婚歌』の冒頭の部分です。普通は、「二人が仲良く過ごすためには、思いやりの心を持ちなさい」とか、「相手に対して優しくしなさい」とか言いそうですが、吉野さんは、「愚かでいるほうがいい」と言われているのです。通常の発想とは全く違います。ただ、この内容は、浄土真宗の味わいに、とても近いように感じます。
親鶯聖人は、お手紙(『親鶯聖人御消息』)の中で、「世のなか安穏なれ 仏法ひろまれ」という言葉を残されています。この「世のなか安穏なれ」という言葉は、「世の中が安らかで穏やかになりますように。そのために、思いやりの心を持った立派な人になりましょう」という意味ではないのです。
自己中心の心から離れられず、本当の意味で、他人のことを思いやることができない愚かな存在が、私たちなのです。そして、そのことに気づかせてくれるのが、仏さまのみ教えなのです。ですから、「世のなか安穏なれ」の後に、「仏法ひろまれ」という言葉が続くのです。
仏さまのみ教えによって、みんなが自らの愚かさ(自己中心性)に気づかされるところに、世の中が安穏になる道が、少しずつ開けてくるのです。
合掌

龍谷大学非常勤講師 小池 秀章