2019年10月のおはなし
文:豊原大成 絵:小西恒光 出版:自照社出版
むかしむかし、おしゃかさまは王子さまとしてお生まれになりました。
すくすくと大きくなったおしゃかさまは、かしこく、力もつよく、ゆうきのある王子さまになられました。
王子さまは16さいのとき、とおく西にあるガンダーラ国のタッカシラーという町にいき、いっしょうけんめいべんきょうしました。
なん年かのべんきょうがおわってみやこへかえるとき、王子さまは先生から、弓矢とかたなとやりとぼうをいただきました。
たびのとちゅうに、大きな森がありました。
人びとは王子さまに「この森には、なんでもからだにくっつけてしまう、おそろしいおにがいますよ」とおしえてくれました。
しかし、王子さまはこわがらず、どんどん森のおくにはいっていきました。
森の中ほどにきたとき、からだじゅうにながい毛のはえた大きなおにがあらわれて、「たべてやるから、にげるなよ」と王子さまにいいました。
王子さまは「わるいやつめ、たべられるものならたべてみろ」と、弓に矢をつがえて、50本も射ましたが、矢はぜんぶおにの毛にくっついただけでした。
つぎに、王子さまはかたなをぬいて、おににきりかかりましたが、かたなも、おにの毛にくっついてしまい、どんなにひっぱってもとれません。
それならばと、王子さまはやりでおにをつきさしましたが、やはりおにの毛にくっついてしまいました。
そこで、王子さまはぼうでおにをたたきました。
しかし、ぼうもおにの毛にくっついてしまいました。
ついに、王子さまはからだをぶっつけるようにおににたちむかっていきました。
右手、左手、右足、左足、おでこを、つぎつぎにおににぶっつけてせめました。
ところが、みんなおにの毛にくっついてはなれません。
それでも王子さまは、どうにかしておにをやっつけようと、あばれました。
そのうちに、おにはかんがえました。
「こんなにゆうきのあるにんげんは、みたことがない」。
そして、王子さまにたずねました。
「おまえはわしがこわくないのか」。
王子さまは、こたえました。
「こわくなんかない。ぼくのからだの中には、ほとけさまのおしえがはいっているからな」。
王子さまがこのようにいうと、ふしぎなことに王子さまのからだがおにの毛からはなれました。
王子さまはおににむかって
「おによ、わるいことをしてはいけない。ほとけさまのおしえをきいて、森や村の人たちをまもりなさい」といいました。
おには王子さまのおしえにしたがいました。
やがて、王子さまはみやこにかえり、りっぱな王さまになりました。
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