「お釈迦さまの
ものがたりU」

えほんより


中川 晟



野村 玲

発 行 所
本願寺出版社


(3)
「ネズミよ、おまえは、もう

この森(もり)のなかで、こわいものは、いないだろう。

きょうからは、ひとりで

すごすがいい」


トラになったネズミは

ずっとまえに、すんでいた村(むら)へ

かえりたくなりました。


ところが、かえってみると


村(むら)びとは

「トラだ、トラだ」

と、大(おお)さわぎです。


はじめのあいだ、トラは

すぐ森(もり)へ、もどっていました。

ところが、村(むら)びとの、にげまどうすがたが

だんだん、おもしろくなって

まいにちまいにち、村(むら)にあらわれては、おどかしました。

「ガオーッ、ガオーッ」

村(むら)びとから、それをきいた、おじいさんはいいました。

「みなさん、そのトラは

もともとネズミだったのです。

ちっとも、こわくなんかありませんよ」

村(むら)びとは、もう、おどろかなくなりました。


「こうなったのは、おじいさんのせいだ」

トラになったネズミは

はらがたって、はらがたって、たまりません。


「よーし、おじいさんを、こらしてやろう」


大(おお)きなからだで

バシバシと、戸(と)をこわすと

いえにとびこみ

おじいさんに、おそいかかりました。

そのしゅんかん

おじいさんのこえが、ひびきました。


トラは、あっ、というまに

小さなネズミにもどって

なにもかも、おしまいになりました。


ちょろちょろと

森(もり)のなかへ

にげこもうとするネズミを

大(おお)きなワシが、木(き)のえだから

ねらっていました。




「お釈迦さまの ものがたりU」のえほんより